祖母の家が取り壊されるということで、そこに置いてあった大量の本が強制的に送られてきた。
もう失くしたか、
誤って捨てられたかと思っていたのに。
それらは30年ほど前17歳から19歳にかけて
古本屋で購入したものが中心だった。
何であの頃は古本屋で本をやたら買ってたんでしょう?
そのうち一冊を手に取り、はっと息を飲んだ。
それは熊本市の「やつしろ書店」で買った本。
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太宰治「人間失格」筑摩書房 昭和23年初版
この店、17歳の時に偶然入った。
場所は熊本市内の仁王さん通りという
メインストリートから外れた裏通りにあり、
築数十年はあろうかと思われる古びた木造建築で、
見た目からして「何か古い本がありそう」と
期待させるに充分な外観だった。
おそるおそる引き戸を開けると、
10坪に満たない店舗には本がこれでもかと並べてあり、
さらに並べきれない本が地べたに山積みになっていた。
掘り返すと、見たこともない古い本が出てくるので、
興奮して掘り返す手が止まらなかったのを覚えている。
その後もこの店にはよく通い、
店主にお茶を出してもらうぐらいにまでなってしまった。
ところがだ。
自分の中では良書のある名店だったというのに、
現在ネットで店名を検索してもさっぱり出てこない。
閉店してから15年も経つという。
きっと時の流れの中で、
人々の記憶から消えてしまったに違いない。
店が無くなっても、
本は、人から店へ、店から人へ、を繰り返し、
後世に残っていくもの。
この本も大切にしてくださる方のもとへ、
行きますように。



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